『鉄拳』プレイヤーたぬかな――プロ3年目。「結果を出し続ける自信がない」葛藤を乗り越え、さらに“挑戦”は続く

誰よりも勝ちに貪欲に。誰よりもストイックに。

『鉄拳』プレイヤーのたぬかな選手は、2016年11月に現所属チームであるCYCLOPS athlete gaming(以下、CAG)と契約を交わしてから、すでにプロゲーマーとしてキャリア3年目のシーズンを戦っています。

格闘ゲームシーンを良く知る方にとって、彼女の実績と実力を改めてご説明するまでもないですが、最近はメディア露出の機会も増えており、『鉄拳』というゲームの垣根を超えてeスポーツシーンにおける最重要人物のひとりとして飛躍を続けています。

しかしその成長と栄光の裏側で、彼女にはプロゲーマーならではの葛藤が重くのしかかっていました。「もう結果を出し続ける自信がない」と周囲に打ち明けるほど追い込まれた時期もあったそう。今回はそんなたぬかな選手に改めてこれまでの道のりや苦悩をお聞きしました。

インタビュアーは、これまでもたぬかな選手の活動をウォッチし続けてきたSHIBUYA GAME元編集長の石川 龍。プレイヤーとしてのたぬかな選手をプロデビュー当時から追いかけてきた彼独自の目線で、これまで彼女が向き合ってきた“もどかしさ”とその先に見据える未来に迫ります。

たぬかな選手プロフィール
CYCLOPS athlete gaming所属の『鉄拳』プレイヤーであり、レッドブルアスリートとしても活動中。
高校卒業時から地元で名前が知られるほどの実力者で、友人からの「プロ募集してるよ」との偶然の一声でプロの道へ。最近の楽しみは、地元徳島にいる甥っ子姪っ子にプレゼントを買っていくことだそう。
Twitter @kana_xiao

突きつけられた現実と、強くなりたいという気持ちの葛藤

――プロになってからの2年と半年、自身の環境や心境がめまぐるしく変化してきたと思います。その中で印象的だった出来事はありますか?

たぬかな 印象的と言いますか、長い時間、悩み続けてきたことはあります。

プロになりたての頃、「自分はもっと強い」と思っていたんです。運要素もあるゲームですし、当時の実力でもトッププロに勝てる、自分はやるべきことをちゃんとやれている、って。でもプロ1年目を過ぎた頃から、練習をしても相手との差が縮まっている気がしませんでした。強くなっている実感はあるのに、それ以上に足りないところがどんどん出てくるんです。

このゲームを8年間プレイしていますが、プロになってからの2年だけでも本当に強くなれました。ただ、自分のレベルが上がってきたからこそ、良い意味でも悪い意味でも、自分がどのレベルにいるのかを正しく認識できるようにもなったんです。確実に強くなっているのにそれでもまだトッププロには届かなくて、差がこれだけあるんだと痛感して、すごく落ち込みました。

「追い付くにはどうしたらいいんだろう?」と考えて、死に物狂いで練習しないといけないなと思いました。でもありがたいことにその頃から試合や練習以外にメディアのお仕事など忙しい日も増え、十分に練習できないことも多くなってきて。

より高みを目指すために、メディアのお仕事を断って競技に集中する道も考えました。ただ、強さで1位になるのは今までも男性プレイヤーたちが成し遂げてきたことですよね。それを女性の私が実現するのもすごいことですが、メディアに露出してみんなに姿を見せていくということは、もしかすると”私にしかできないこと”かもしれないとも思ったんです。

女性プロゲーマーとしてお仕事をもらえているのは、きっと私の強みでもあります。強さに憧れる人が多いとは思いますが、大会で優勝ができなくてもメディア方面にも積極的に出て活躍する私を見て憧れてくれる人もいるわけです。土俵は別になりますが、「メディア方面であれば業界に同じくらい貢献できるのかな」という思いがプロ2年目に初めて出てきました。

もちろん「強くなること」「勝ちを目指すこと」はプロとして当たり前の姿勢です。もっとレベルの高い人たちに追い付きたいし、負けたくない。でもその差を縮めるにはまだ時間がかかるし、そのあいだ業界に何も貢献できないことがつらいんです。だからその遠さも考えて、今この業界に貢献できるお仕事もやっていく必要があると思いました。

――僕はプロデビューした当時からたぬかな選手を知っているからこそ、そのあたりの葛藤を肌で感じていました。

たぬかな 葛藤はすごくありましたね。

――そうですよね。

たぬかな CAGに加入して最初の1年くらい、それこそビットキャッシュ(※)のお仕事を含めてPRにつながるようなことも色々やらせていただきました。そういうお仕事をやりながらも、練習する時間が十分に取れなくて、それが結局大会の結果にも紐づいてしまって悔しい思いをしたこともありました。頼まれたお仕事だからやらないといけないという気持ちとその悔しさの中で、ものすごく葛藤を感じてしまったんですよね。

プロになってからの結果を振り返って「けっこうがんばったな」と認めてあげている自分もいました。ほかの人から見たらまだまだ足りないのかもしれませんが、自分の中では本当に褒めてあげたいくらいの戦績だったので。

でも、自キャラ(シャオユウ)が強いから勝てていたのも事実だと思います。キャラに弱体化の調整が入ったことで厳しい相手も出てきますが、実力が上でキャラの相性も悪い相手となると本当に自信がなくなってしまって……。

※編注:ビットキャッシュ株式会社。CAGのメインスポンサー、またSHIBUYA GAMEの運営企業。

結果を出し続けられるか不安に駆られたことも

――『鉄拳』シーンは世界的にレベルが上がっていますもんね。プレイヤーのレベルも本当に上がっていると思います。

たぬかな そんな競技シーンの中で自分がどこまでついていけるのかなって。2019年に入っても、ありがたいことにメディアのお仕事がどんどん増えていて、東京にも度々来ていますし移動時間も非常に増えました。この状態で今後もコンスタントに結果を出していけるのかすごく不安で、その話を個人スポンサーさん(レッドブル)にもしたんですよ。「本当に自信がない」って。

――それはいつ頃の話ですか?

たぬかな 2019年の1月か2月くらいですね。「せっかくスポンサーについてもらって申し訳ないんですけど、今年はあまり結果を出せないかもしれないです」とお伝えしました。

でも、レッドブルアスリートは競技者だけではなくてストリーマーとも契約してるんです。だから、「たぬかな選手にはもちろん大会に出てがんばってほしい。でも、業界にも貢献したいって明確なビジョンを持っていてそれに向かって進んでいる姿勢を応援したい。何かをやりたいって言ってくれる限りは会社として応援を続けるから!」と言ってもらえました。

それを聞いて「あ、そっかー」って、全身がちょっと軽くなったんです。そこからはメディアに露出するお仕事も積極的に受けるようにしています。

――ぐっとアクセルを踏んだのはつい最近の出来事なんですね。そこに踏み切るまでは相当苦しかったのではないですか?

たぬかな そうですね。自分で言葉にしたのは本当に最近です。

自分は競技者としてやりたいけど、先が見えなくて本当に苦しかったんです。キャラの性能に頼っていた部分もあるので最近は別のキャラも使えるように練習をしているんですが、まだそこまでうまくいってないのかな。やっぱり練度の違いで「元のキャラクター使ったほうが強いよ」って言われてしまいます。

新しくキャラを育てていくのは1年、2年と長い時間がかかるかもしれないので、「そのあいだ結果が出なかったらどうしよう」と、こわい気持ちもあります。でもいろんな面を考えるとeスポーツ界のためになるのであれば、強くなることにもメディアのお仕事にも全力でがんばったほうが最終的にはよい結果が出るのではないかと思うんです。

勝つことだけがプロの仕事ではない
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