信念が無いキャスターは生き残れない「海老江邦敬 / kuroebi」未来に残す憧憬とグランドデザイン【前編】

ゲームキャスター「海老江邦敬 / kuroebi」。ハースストーン、シャドウバースなどカードゲーム実況解説を中心に活躍、現代のeスポーツを盛り上げる人物としては欠かせない存在だ。

「自分の実況ならゲームをもっと盛り上げられる..」

ただ1つの想いからスタートしたゲームキャスターとしてのキャリア。今のkuroebi氏が抱く展望、悲哀、大義、憧憬、その全てを未来へと残すべく単独インタビューを実施した。

選手の技術を極限まで表現するのがキャスター

――「カードゲーム実況におけるトップデックのブランディングが神がかっている。」……、kuroebiさんの実況を見た僕の印象です。運では無く技術であることがしっかりと表現されていて、とにかく選手がカッコ良くみえる。
※トップデック:カードゲームの試合において、形勢を有利に進めるカードを引き当てること

ありがとうございます!その点はかなり意識しています。どんなスポーツにおいても、全てのプレイに運を絡めようと思えばできる。当然ですが、運の側面だけではなくて、そこに至るテクニックとして説明してあげた方が選手がカッコよく映る。

勝敗要因を「運がよい」の一言で片づけてしまうのは勝つために必死に練習している選手を馬鹿にしていることになります。

――選手を最大限リスペクトすることは、発展途上なゲームの実況であれば尚のこと重要になってきますね。

そうですね。最近は、民放から来たキャスターさんもゲーム実況を担当されることが増えましたが、運と技術の表現については苦労されています。僕が同席した場合はよく指摘します。
「もしピッチャーが投げた球が逸れた時に、その時のバッターに”運が良かったですね”って言いますか?」って質問したりします笑

人に対して運が良かったというのは適切ではない。それはある意味、ゲームのプレイヤー自体を下に見ている表現です。

――実況解説の仕事として選手を最優先に考えるのは当然のことに思えます。でもそれができない、どうしてそのようなことが起きるんでしょう?

残念ながら実況者がそのゲームのことをそこまで理解できていないのが要因となっている、と考えます。

選手達がやってきたことを否定しないためには何を言わないといけないのか、今このカードを引いたから勝てたではなくて、そこに至る過程を説明するべき。その為にはゲーム自体の理解が必要不可欠です。

信念がないとキャスターは務まらない

――選手がカッコ良く映る実況といえば、シャドウバース実況で共演されている、友田一貴さんや平岩康佑さんも素晴らしい実況をされています。
先程、民放出身キャスターに関するお話がありましたが、平岩康佑さんも朝日放送のスポーツ実況出身の方ですよね。

友田さんはゲームに対する信念としては似た方向を向けていると感じますね。

平岩さんはキャリアチェンジされた当時、僕の出演している番組にゲストとして来てくれたのですが、あまり上手くゲームの実況が出来ず、落ち込んでいる時もありました。でもそこから頑張って勉強して、自分の信念をもって成長されています。

いま売れているゲームキャスターの方は皆、選手をどう見せたいか、そのゲームをどう見せたいか、そういう強い信念が自分の中にある方達です。

――LJL公式キャスターeyesさんは以前「対局的視点と局所的視点」を実況中に切り替えている、と仰っていました。
リーグオブレジェンド(以下:LoL)では個として戦う状況とチーム全体としての優劣、これらの2軸があるから2つの視点が必要とのこと。
このような視点切り替えの手法はカードゲームの実況でも有効なのでしょうか。

有効ですね。カードゲームは障害物競争のようなもの。一つ一つの障害物をクリアしていく際には局所的な解説、競争過程全体を美しく表現するためには大局的な解説が必要です。

自分ならもっと盛り上げられると思いキャスターに

――kuroebiさん自身、キャスター活動は2016年にスタートされましたが、当時と比べると変化は感じていますか?
デジタルカードゲームの登場で当時よりもプレイヤーとしての環境は良くなっている印象があります。

環境や報酬制度が整備されたことで最上位層はやりやすくなったのかと思います。ただそこより下の層の競技プレイヤーの生活は変わってないです。

僕も『Magic: The Gathering』を10年間やりつづけてプロツアー(現:ミシックチャンピオンシップ)にチャレンジすることができ、当時トップ30位に入りました。

しかし、終わってみると次のプロツアーへの挑戦が始まるだけで、劇的に生活が変わった感じはなかったです。もっと勝つためには実力が足りていないのは分かっていたのですが、練習も含めてそれが次のチャレンジに繋がっているのか分からない状況でした。

――すごく共感します。僕も3年前プロツアーに出ましたが帰国後、特に生活が変わりませんでした。いつもの日常に戻るだけ。でもマジックに何か恩返しをしたいと思うようになりました。

僕も考え方が近くて、自分ならもっとゲームを盛り上げられると思ったのでキャスターの仕事を始めました。僕は当時十数年間マジックを辞めずにやり続けました。中学でマジックと出会って、高校でも辞めず、大学でも辞めず、就職しても辞めず続けました。

――そこまで継続される方って珍しいですね。高校あたりで一旦辞めて大学や社会人で復帰する方が多いです。

周りはどんどん辞めていきました。ただ偶然、僕の地元にはマジックの公式大会でも64人は集まるショップがあったんです。
マジックを続けられた動機として大きかったですね。

その後、大学で札幌に出て、トーナメントシーンが変わっていって、グランプリとか大きな大会にも出るようになって。
どんどん自分の世界が広がっていったのが続けられた理由なのかなと。


※写真提供:株式会社晴れる屋

マジックで人生が変わった

――以前、別のインタビューでキャスターとして競技マジックに関わりたいと仰ってました。
その発言からとても思い入れの強さを感じたのですが、これほど切実な背景があるとは思ってませんでした。

僕はマジックのおかげで人生が変わったと思ってます。マジックに恩返したい気持ちは強くありました。

昔、マジックは他ゲームに比べても閉鎖的なゲームでしたし、キャスターを始めた当時もそこまで大きく変わっていなかったので、そこに一石を投じたかった。

――当時はハースストーンのゲーム実況からスタートされてましたが、”自分ならもっと盛り上げられる”と思って活動開始されたと仰ってましたね。

そうです。当時は少し年齢的に遅かったかなという気持ちがあったくらいですが、今はそこまで気にもしてないですね。

――キャスターの方ってお若い方が多いですよね。有名キャスターだと岸大河さんもお若いです。ところで、この界隈は他者との関係性で年齢を気にされる方は少ないですね。

キャスターもそうですが、プレイヤー側だと特にそうかもしれないです。年齢なんか気にしている人は勝てないです。
本当に実力勝負。競技マジックに触れていると、いろんなタイプの天才に合うことになるので、年齢という概念は超越していることが多いです。

ゲームの業界って全部そうで、年齢で上下関係を決めたり、自分のことをチャンピオンだと思っている人はいません。

――具体的にはどういうことでしょうか?

常に上位に食い込むためには都度技術向上をしないといけないので、自分が1番だと思ったらモチベーションを保つことができなくなりがちです。

どんな立場になったとしても日々苦しさとの戦いです、チャレンジ精神が無い人は勝てない構造になっていると思います。

――好きなこととはいえ、練習は辛いものです。ケイン・コスギさんは「ゲームプレイヤーの方が練習時間が長い。彼らはフィジカルスポーツの人よりもアスリートだ、人生を捧げている」と仰っていました。ゲームプレイヤーはもっと尊敬されるべきだと。

そうですね、フィジカルスポーツの選手は身体を酷使する以上、しっかりと身体を休ませる必要があります。ただゲームはそこを超過して練習できてしまう。

Shadowverse World Grand Prix 2018で優勝し1億円を獲得したふぇぐ選手は初めてチャンピオンになった当時、一日16時間くらい練習されていました。彼はその期間、ずっと自宅のソファーで過ごしていたと語っていました。ベッドだと熟睡しちゃうので練習時間が削れてダメだと思った、とのことです。勝つためには時間はいくらあっても足りないと思いましたね。

引用元:Shadowverse World Grand Prix 2018を制し、優勝賞金1,000,000ドルを手にしたのはfeg/YL選手! | News | RAGE Shadowverse World Grand Prix【ワールドグランプリ】特設サイト|RAGE

競技として一生続けられるのがカードゲーム

――身体に負荷をかけている方は非常に多いですね。eスポーツプレイヤーの選手生命は非常に短命であると聞きます。
ゲームタイトルによっては30歳前後で引退かマネージャーにならないといけない、F1レーサー並みの選手寿命です。

反射神経や動体視力を必要とするゲームはそうなりますね。その中でも、人生全体をかけて競技できるという点ではカードゲームは特殊です。知識と経験の蓄積が活きるゲームなので、年齢がどれだけ上になっても一線で戦える。

――知識と経験で直観力が高まってプレイスピードが上がることもあります。

例えば格闘ゲーム等のアクションゲームと比べてもその特徴が顕著だと感じますね。人生全体をかけて競技できるのがカードゲームです。選手生命が終わるときは学習意欲が尽きた時でしょう。

――キャスターとして様々なジャンルの方とお会いされているkuroebiさん特有の視点ですね。

ここで面白いのが格闘ゲーマーの方々はカードゲームの適性が高いようで。梅原さんもデジタルカードゲームをプレイしていますし、板橋ザンギエフさん、Tokidoさん、ふ〜どさん、皆さんプレイされているとうかがってます。

――それは格闘ゲームとカードゲームの親和性が高いのでしょうか。彼らが特別優秀なだけにも思えます。

格闘ゲームとカードゲームって実は似てるんです。1vs1で戦うゲームって、ゲーム全体を見渡してもかなり限られてます。

――確かにeスポーツシーンにはチームで戦うゲームが多いですし、1vs1のゲームは比較的珍しい部類ですね。

1vs1における独特の勝負勘が双方のゲームに活かせるみたいなんです。あと、格闘ゲームとカードゲームの上達方法が似ていると話される方が多いです。

細かい知識をかき集めて他の人に知識と技術で上回って勝つ、この考え方がほぼ同じなので彼らはそれを面白いと感じているようです。

実際、ドキュメンタリー番組等で彼らの格闘ゲームの練習方法を見ていて、カードゲームに近いと思いました。どのタイミングでボタンを押せばよいのか、この動きを見た瞬間にこうする、これってカードゲームの練習に凄く近い。思考のルーティンがかなり合致する。

あと”やればやるほど勝てる”というのが彼らがカードゲームをプレイする行動原理です。

――運の要素が少ないように思える格闘ゲーム界隈の方から、カードゲームに対してそのような言葉が出るのは意外です。カードゲームプレイヤー側からは中々その言葉は出ません。
運のせいにして技術向上を怠るプレイヤーは多いです。どの辺りが”やればやるほど勝てる”要素なのでしょうか。

積み重ねたノウハウがそのまま結果に直結する点なのでしょう。

――反射神経の要素が求められない分、ノウハウ量の戦いになりやすいという感覚なんですね。

そうですね。彼らは訓練としてカードゲームをやっていますね。格闘ゲームの練習の合間や、お風呂の中でだとか移動中だとか。
普段の生活で格闘ゲームの練習に使えない時間も訓練に使えるようになっているので、格闘ゲーム側に還元できる要素は多いようです。


※写真提供:Wizards of the Coast LLC

キャスターの理想は選手よりもゲームをプレイしていること

――世間ではゲームキャスターを選手後のセカンドキャリアだみたいな捉え方がありますが、kuroebiさんのお話を聞いていると、その考え方は間違っているように思えてきました。

その通りです。セカンドキャリアとしてキャスターをとらえるのは間違い。一線級のキャスターで、プレイヤーのセカンドキャリアだと思ってやっている人はいないと思います。

――これは以前、kuroebiさん自身が仰っていたことですが。シャドウバースってフォーマットが3つあって、その全てに精通していないといけない。コレってある意味、プレイヤーを越えた存在にならないといけないということですよね。

理想はそうですね。キャスターになってもプレイヤーと同じか、それ以上の練習量でゲームに取り組まなければいけません。
むしろ、もっともっとゲームに精通しないといけない。僕はプレイヤーとして一流にはなれなかった。それは事実であり、この仕事をしていてもっとも自分自身で受け止めなければならない部分ですね。

僕が一流のプレイヤーだったら今でも競技の世界にいられたかもしれないですし、キャスターの仕事を通して分かりましたが、上位層のプレイヤーって想像を絶することをやってるんです。
今はそれを少しでも伝えたいと思ってキャスターをしています。

――明確に自分の伝えたいことが無いとキャスターは目指すべきではないと。

プレイヤーからのキャスターとしての道は存在はしていますが、険しいものです。

選手100人に対して1人必要かどうか、という仕事をセカンドキャリアにできるのかという話ですから。

――お話を聞いていると、キャスターになったからといってプレイヤーとしての戦いが終わるわけではないと感じました。ゲームキャスターは選手からのセカンドキャリアでもなければ、逃げ道でも何でもない。むしろ自分の実力が言語化され大衆に晒されてしまう、非常に厳しい世界であると気付かされました。

ゲームへの理解度が低く解説が上手くいかなかった時は、プレイヤーとして大成できなかった自分の実力不足が脳裏を過ります。プレイヤー時代の能力値はキャスターになってリセットされるわけではありません。これを分かっていてキャスターを志す人は少ないと思います。

後編:ゲームキャスター界の課題、マスメディアvsゲームキャスター、eスポーツという言葉に対する違和感、キャスターへの批判、競技プレイヤーへの未練

OGA(Ogawa Shota)

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職業:WEBディレクター/ブランディングコンサル。  シブゲーではMTG(マジック:ザ・ギャザリング)関連の記事を企画担当します。  MTGはプレイするのも大好き、世界大会(プロツアーホノルル2016)出場経験あり。  プレイヤー視点、メディア視点、両方の立場から情報発信します。

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