PAGE: 2 / 2

eスポーツの”あいだ”ではたらく人々 eスポーツ業界アナリスト 但木一真インタビュー編

 

Jini 一方、「eスポーツ今昔物語――2018年までのシーンをふりかえる」を書かれたなぞべーむさんもliveさんと似て率直に発言する方ですが、内容としては割とベーシックなところで抑えていますよね。

 

但木 まず、eスポーツという言葉はそもそも、「ゲーム」に限らない包括的な概念を持っているからこそ面白いと考えているので、そうしたスペシャリストよりはジェネラリストの意見も掲載したかったんですね。

ですが、eスポーツ業界を語れる人って結構少ないんですよ。特定のタイトルやジャンルに詳しい方は多いんだけど、それらを統括して見られる人は限られている。

その中で、タイトルからイベント、経済など色々なものを網羅できる人として、なぞべーむさんが一番優秀だと自分は思うので今回お誘いしました。

 

Jini eスポーツを包括的に語る手段は色々あったと思うのですが、今回歴史的な文脈に注目した理由は何ですか?

 

但木 私自身、セミナー等であちこち飛び回って、毎回「eスポーツとは」と一番最初の部分から語ることに飽き飽きしつつあるんですが、最初に述べたような普段ゲームやネットに関心を持たない企業の方にeスポーツを説明するためには、やはり根底的な部分からお話しなければなりません。

そういう方々を読者として想定しているので、どうしてeスポーツが生まれたのかという経緯、歴史は最も重要だと思います。

Jini 確かにこの本の想定した読者を考えれば必要な部分ですね。ただ私自身、なぞべーむさんのファンで、だから彼にはもう少し掘り下げた部分から、エッジの効いた話を書いてほしかった気持ちはあります。

 

但木 自分の章もそうなんですけど、正直そこまで自分が心から書きたいものでなくても、eスポーツ業界を知らない方に向けて書く以上、前提として知っていただかなければならない知識があり、だからこそ我々2人はあえてフォローに回ったという形です。

他の4人の執筆者には、ガッツリと自分の得意分野で書いてもらい、濃い本に仕上げた自信はあります。

 

Jini 大人の事情ってやつですね。確かに2人が抑えに回った分、他の章はゲーマーや業界人でも刺激的な内容だったと思います。

例えば、Rush Gamingのオーナーである西谷うららさんの章は弾けててよかったですね。チームオーナーだともっとベテランの方でも良かったと思うのですが、何故あえて西谷さんに?

 

但木 一つは年齢です。日本のチームオーナーの世代は3世代ぐらい分かれてて、40前後の先駆者世代、西谷さんがいる30前後のミドル世代、他には20代のカリスマ世代も生まれつつあります。

もちろん、開拓者として道を切り開いてきた、先駆者世代の方々は偉大で、彼らに書いてもらうことも考えましたが、彼らは成功体験を経て本や講演などで外に出て、ちゃんと自分の考えやノウハウを発信していらっしゃいますよね。

一方西谷さんの世代は、先駆者世代が開拓してきたノウハウを踏襲しつつ、例えばSNSの発信や動画コンテンツの配信など新しい取り組みにも積極的で、非常に面白いと思うのですが先駆者世代のオーナーさんほど注目されていないので、ここから引っ張りたいなと。

加えて、男性が多いチームオーナーの中で西谷さんは女性の立場を活かしてチームをプロデュースしています。例えば、いかに選手を魅力的に見せるかという工夫、そして文章にもある通りファンが何に共感したり感動するかを凄く意識してチームを運営しているんです。

 

Jini 日本テレビの佐々木まりなさんの章は対比と論理をガッチリ固めて、それでいて「我々のやり方はこんな強みがある」と主張していて読み応えがありました。

 

但木 佐々木さんもうららさんと大体同じ世代、もっというと自分もその世代なんですが、我々30前後の世代は基本的にテレビとネットという2つのメディアの過渡期を生きてきた世代なんです。テレビは少しずつ若年層からの支持を失って、もう数十年前の「マスメディア」ほどの「マス」ではなくなりつつある。

その時代で、佐々木さんは自らテレビの世界に飛び込んで行って、しかもeスポーツという基本的にネットで発展した文化をテレビに持ち込んで、そこに新しい価値観を作っていく。そういった姿勢は本当に尊敬しますね。

 

Jini 佐々木さんの章のタイトルが「テレビとeスポーツ」ですからねぇ。それは2つのメディアを知っている彼女の世代的な認識もあるし、加えてテレビとゲーム両方への敬意を持っていることもそうなんですけど。

同時に、まりなさんの言葉からは、マスメディアとしての使命感、責任感というのも感じるんですよね。弁護士の松本さんもそうだけど、公共の電波を使う事業である以上、まりなさんが携わるマスメディアには社会的な責任が特に生じるわけじゃないですか。

 

但木 実際のところ、eスポーツというムーブメントを今後何年も続けていく上では、ウェブ上の若年層だけで完結しているだけでは厳しいんですよね。

いずれはテレビの持つ「マス」に対する訴求力が必要になってくるわけで、まりなさんを含めたマスメディアの貢献というのは、eスポーツ業界にとってもすごく大きなものだと思います。

 

Jini そうなんですよね。テレビにおけるeスポーツの報道は少し緩く加工されていて、そこに対して批判もあるんですけれど、やはりそういった広い視野が必要になる。

 

但木 ザックリとしたビデオゲームの競技シーンが行きつく先が、eスポーツという概念で終わりなのかという点は議論の余地があると思います。

仮にeスポーツという言葉がない時代でも、そこにゲームで切磋琢磨する人はいたわけだし、将来eスポーツが別の概念に変わったとしても、それが悲嘆すべきことかはわからない。ただ、先ほどチームオーナーの方の話にもあったように、先人の方々が切り拓いて作ってきた世界ですから、そこは大事にしたいなと。

 

Jini はい、この本を読んでいて本当に多くの方に支えられている世界なんだなと実感しました。弁護士である松本さんはどうして関わられたんでしょうか。元々この本は彼の提案だったそうですが。

 

但木 松本さんは大変フットワークの軽い方です。この本のアイディアは彼のものだし、彼は東京大学法学部を出て弁護士になったすごいキャリアの持ち主ですが、それをひけらかすでなく悠々と仕事されてるんですね。

彼自身がプライベートで『PUBG』や『Overwatch』を遊ぶこともあって、ごく自然とこの業界で仕事されている。そういった能力と対応力から、今回は松本さんに書いてもらいました。

 

Jini 松本さん本当にスペック高いですね……。まだそこまで多くの法律家の方がeスポーツに関わっているわけではないですが、今後eスポーツの発展には彼らの力がもっと必要になりますよね。

 

但木 これまでeスポーツ業界における法律家の仕事は、外的な法的課題をクリアすることが主だったと思うのですが、今後はガイドラインの整備など、もっと業界の内側で制度を整えるうえでも、彼らの力が必要になると思います。

 

Jini 確かに、外に対してだけでなく内に対しても法的な知識は必要ですよね。最後に入っている但木さん、松本さん、小澤さん、荒木さんによる座談会も興味深かったです。

 

但木 もともとeスポーツの会を立ち上げたメンバーですね。最後に、世代を超えた議論をやってみたくて座談会の機会を設けました。特に荒木さんは10代の方なので、ぜひその目線も入れたいなと。

 

Jini なるほど、ビジネス向けでカッチリした内容の本著の中では、箸休め的に読めてよかったですね。荒木さんは学生の立場で起業されて、e-modeというサービスも作られている。小澤さんもNTTデータからこの業界に飛び込むという、すごい経歴の持ち主で。

 

但木 2人とも優秀な方です。こうした若くてやる気に満ちた方がeスポーツ業界に参入されていることは本当に喜ばしいことですね。

 

Jini あと座談会における但木さんの発言で気になったのが「eスポーツ部は逃避の場所でもいい」という発言で。

 

但木 eスポーツにしてもビデオゲームにしても、既存の文化から学べることはガンガン学んでいくべきだし、だけど必ずしも既存のアナロジーに縛られる必要もないなと思っていて。

例えば、『フォートナイト』に「ザ・ボーラー」という乗り物があるんですけど、透明なカプセルの中に自分が入って、好きなだけ転げまわったり飛んだりできる。もうそれだけで楽しいんですよね、すごく非現実的なことをゲームの中でやっているということが。

ゲームを遊んでいる限り人は自分の肉体に縛られる必要もなくて、その結果として多様な人間が参加できるエンタメになっている。無論、いまだに差別や暴言等の問題もあるけれど、こういった部分がゲーム、そしてeスポーツの魅力なんだと思います。

 

Jini 昨今、SNSや動画配信サービスによって、純粋に価値観だけで繋がれるものが増えたと思うんです。ゲームもそこに凄くアジャストしたエンタメで、だからこれらのサービスとも相性がいい。

ではそろそろお時間ですね……。これを聞くのは時期尚早ではあるのですが、続編を書かれる予定はありますか?

 

但木 少なくともこの本の続きは当分書かないと思いますね。私は、本を最後のプロセスだと思ってます。最新の情報はSNSで手に入ってて、それをWebメディアがまとめて議論を起こす。それを最終的に保存するために、残ったものをまとめて本にして、業界の外にも訴求すると。

 

Jini 「待て、しかして希望せよ」と。本日はありがとうございました。

 

―――

eスポーツ業界のアナリストとして常に「外」に目を向けて発信を続けてきた但木さん。

この『1億3000万人のためのeスポーツ入門』を編著した理由も、やはり「外」にありました。eスポーツを知らない人にeスポーツを伝えるにはどうすればよいか、そうした苦悩が彼の言葉の随所から伝わります。

だからこそ、近い世代の人間を集めて、深度、角度、なにもかもバラバラなようで、通してみると全てがつながる本著を但木さんは書いたのでしょう。常に情熱的に、そして敬意を滲ませながら、同じ最前線に立つ仲間のことを話す但木さんの言葉には淀みがなかったのです。

 

1億3000万人のeスポーツ入門 執筆陣8人にインタビュー《特集》怒涛の7連続インタビューを敢行中!

前のページ
1
2
次のページ

J1N1

プロフィールを見る

個人ゲームメディア「ゲーマー日日新聞」でゲームの批評とか書いてます。何でも遊びますが、深いコクのあるゲームが大好物です。でも古い銃がたくさん出てくるゲームにはすぐ惚れます。

あわせて読みたい

KEYWORD

キーワードから関連記事を探す

RANKING

人気の記事

  • DAILY
  • WEEKLY
  • MONTHLY

GAMES

注目ゲームから探す

ドラゴンクエストライバルズ

PUBG

Shadowverse

スプラトゥーン2

League of Legends

ストリートファイターⅤ

Hearthstone

Overwatch

PICKUP POSTS

編集部のおすすめ記事

TREND KEYWORD

注目キーワードから探す

LATEST

新着記事

NEW
NEW
NEW
すべての記事を見る