『ストV』理論値最強?物議を醸す”HitBox型”コントローラー。格ゲー大会のレギュレーションはどう順応していくべきか?

引用元:HitBox販売サイト

「ルールが悪い時は、それを使っていかないと、(ルールが)良くならないから」

自身のTwitch配信でHitBox型コントローラーの練習をするウメハラ選手は、その理由をこのように答えました。

HitBox型コントローラー(以下、HitBox)は、以前から存在していた格闘ゲーム用コントローラーです。
全ての操作をボタンで行えるように設計されているのが特徴のHitBox。ウメハラ選手が実践投入を検討していることをきっかけに、今格闘ゲーム界で話題になっています。

そもそも格闘ゲームといえば、レバーがついたアーケードコントローラー(以下、アケコン)のイメージが強いのではないでしょうか。日本のトッププロの選手は往々にしてアケコンを使っており、その中にはアケコンメーカーからのスポンサーを受けている選手も多くいます。

そんな中、最近になって注目され始めたHitBoxですが、その理由は「理論値最強」コントローラーであるからです。

HitBoxが注目されることで、格闘ゲーム界はどう変わっていくのでしょうか。そしてHitBoxが浮き彫りにした、格ゲーの問題点とは?

「理論値最強」の根拠

HitBoxとアケコンの最大の違いは、アケコンにはレバーがあり、HitBoxはレバーの代わりにボタンがある点です。HitBoxはレバーの代わりに、上下右左(同時押しで斜め)に入力できる4つのボタンがあります。

赤いボタンが、左から←、↓、→、↑の入力に対応しています

これらのボタンはアケコンの攻撃入力に使われるボタンと同じであり、構造だけを考えるとHitBoxの方がシンプルです。方向操作をボタンで行うのは不便なように思えますが、なぜHitBoxの方が強いとされているのでしょうか。

格闘ゲームは、対戦のレベルが上がれば上がるほど、一瞬の駆け引きが勝敗を分けるゲームです。相手の行動に反応し、フレーム単位で行動を行い、時には複雑なコマンドを完成させることも要求されます。

これまでのアケコンが基準となっていた時代では、反応速度はプレイヤーの先天的反射神経と、トレーニングに依存すると考えられてきました。

しかしHitBoxは、物理的入力ラグを軽減することで、飛躍的にプレイヤーの反応速度及びコマンドの完成速度を向上させることができます。

ボタン > レバー

レバーの最大の弱点は、入力に「傾ける」という操作が伴う点です。

格闘ゲームはレバーで遊ぶことを前提に設計されているため、今までこれを疑問視することはありませんでしたが、「傾ける」という操作はボタンの「押す」に比べ圧倒的に非効率的です。

例えばレバーで「←→」という入力をしようと思った場合、まず左にレバーを傾けた後、手首を返すようにレバーを右へ引っ張る必要があります。

この操作では必ずニュートラル(レバーが傾いていない状態)を経由しなければならず、どんなに操作精度を上げたとしても、入力まで少なからず時間がかかります。

しかしHitBoxでは、←と→はそれぞれ独立したボタンです。←ボタンを押した後に→ボタンを押せば、「←→」コマンドが完成します。

実戦での例1-ダッシュ行動

ほとんどの格闘ゲームには、ダッシュまたはステップという行動があり、それらは「→→」というコマンドで成立します。間合い管理が重要になる実戦では、ダッシュコマンドの完成速度は非常に重要です。

「→→」というコマンドをレバーで入力した場合、一度右にレバーを傾けた後、中央に戻し、再度傾ける、という操作が伴います。しかしHitBoxでは、単純に→ボタンを2連打するだけです。この差はトレーニングでは埋まらないほど大きいものです。

HitBoxのダッシュは、レバーと違い予備動作がなく、奇襲に使った場合の成功率が高くなります。さらに相手の技の空振りなどに反応して間合いを詰めることも簡単になります。

実戦での例2-コマンドの完成度

格闘ゲームでは、強い技には難しいコマンド入力が伴うのが常です。

代表的なものに昇竜拳コマンドがあります。昇竜拳は切り返し、コンボ、対空迎撃と、様々な場面で活躍する強力な技です。

HitBoxはこうしたコマンドの操作も簡略化します。例えば昇竜拳は、「↘↓↘」または「→↘→」というコマンド入力しなくてはなりません。レバーで出すにはある程度の練習が必要です。

これらの入力をHitBoxで行った場合、ボタンホールド、放す、再度ボタン押す、という無駄のない3手順で完成します。

また、溜めコマンドのあるキャラクターにおいては、溜めが最速で作れるため、技の発生が実質速くなります。これにより、レバーでは不可能なコンボなどもHitBoxでは見つかっています。

アケコンは善、HitBoxは悪なのか?

HitBoxは革新的なコントローラーであり、普及した場合格闘ゲームのレベルを上げるのは明白です。しかし、コミュニティはHitBoxをそこまで好意的に受け入れていません。なぜでしょうか?

『大乱闘スマッシュブラザーズ』コミュニティでは、同じようなコントローラー(SmashBox)が開発された際、すぐに大会でBANをする処置が下されました。
今、『STREET FIGHTER V』(以下SFV)コミュニティでも、そういった声は少なくありません。

Capcom Pro Tourプレミアイベントである「Combo Breaker」開催を前に、これらの主張を受け、公式が声明を出すほどまでになっています。

CPTの精神に合わないコントローラー……なんとも曖昧な言い方です

ウメハラ選手は事前に大会運営及びCapcom Pro Tour公式に、練習していたHitBox型コントローラーの使用許可を得ていました。

しかしこの声明を受けて、更なる問題を防ぐために、自主規制という形で、アケコンでの「Combo Breaker」出場を決めました。

根強いアーケード文化

格闘ゲームはゲームセンターから始まった文化です。ゲームセンターでは、自分のコントローラーなどありません。お店に置いてある筐体で、プレイヤーが皆平等な条件下でプレイしていました。格闘ゲーム自体も、アーケード筐体を想定した操作方法を採用していて、それは今日でも大きくは変わりません。

上述の技コマンドにはじまり、操作精度の向上は長年プレイヤーたちの課題でした。『STREET FIGHTER II』の時代には、昇竜拳が出せるだけで上級者扱いだったと言います。

長年の練習で習得したレバーでの操作が、新しいコントローラーにより簡単に超えられてしまうのは、一部のプレイヤーにとっては納得がいかないことなのかもしれません。

また、元来は難しいとされていた行動が簡単になってしまうことで、ゲーム性にひずみが生まれないか?という心配もあるようです。

ただし現在の格闘ゲームはゲームセンターだけでプレイするわけではありません。例えば「STREET FIGHTER」シリーズは家庭用ゲーム機、PC、果てはiPhoneなどの携帯機でもプレイできます。

そういった対応機種の広がりに伴い、新たなコントローラーに対する需要が膨らんでいくことは至極自然な流れなのかもしれません。

明確なルールが無いことへの不安

HitBoxは革新的コントローラーであったと共に、「道具の差」をコミュニティに気づかせるキッカケともなりました。

格闘ゲームコミュニティでは、上記ツイートにもある通り、自作コントローラーの文化も盛んで、大会は自慢の自作アケコンを披露する場でもありました。そのためもあってか、格闘ゲーム大会ではコントローラーに対する制限が少なく、結果としてHitBoxもルールに反しないコントローラーとされてきました。

しかしこの文化は、今までコミュニティが「ズルい」と思えるコントローラーが存在しなかったからこそ、成り立っていたものです。実際、今までに結果を残してきたプレイヤーはほとんど市販のコントローラーを使用していました。

しかし、ウメハラ選手が「パッドやアケコンより強いのは明確」と言うように、HitBoxは使いこなせた場合、他のコントローラーの上位互換と成りえます。こうなるとコミュニティとしては、他にどんな「ズルい」コントローラーがあるのか?という疑問が挙がります。

現状のレギュレーションとゲームシステムでは、全てのコントローラーは平等ではない、という事実が浮き彫りになったのです。

ではコミュニティは、自作コントローラーなどの文化を放棄して、新しいコントローラーを制限するべきでしょうか?

「格ゲーコミュニティは善意で成り立っている」?

「HitBoxを制限するのは難しいと思う。このコミュニティは善意で成り立っている部分がまだあるから」

トッププレイヤーであるときど選手は、配信でこのように語りました。

HitBoxとそれを取り巻く議論が浮き彫りにしたのは、コントローラーの問題のみならず、コミュニティ、そして競技シーンそのものの未熟さなのかもしれません。

ウメハラ選手が「Combo Breaker」にアケコンでの出場を決めたのもいわば「善意」。eスポーツとしての発展が期待される格闘ゲームが、「善意」に頼っていて良いのでしょうか?

まず、HitBoxが以前から存在していたのにも関わらず、大部分の格闘ゲームコミュニティは、その強さに全く気付いていませんでした。これは、プレイヤーたちが未だ格闘ゲームの可能性を最大限模索できていないということです。

この「未知の可能性」を良しとするか悪しとするか、それが最大の焦点のように見えます。

レギュレーションにある根本的な問題

さらに、格闘ゲームには「善意」無しでは成り立たない部分が他にもあります。それは、キャラクター選びのレギュレーションや、試合環境にあります。

格闘ゲーム大会では、申請が無い限りキャラクターのブラインドピックは行われません。つまり、相手のキャラクター選択を見てから有利なキャラクターを被せる行為が、ルール上許されているのです。

さらに、檀上以外で行われる試合では、観戦者の介入(アドバイスや応援など)にも制限がなく、過度な声援に集中力が乱されるというプレイヤーもいます。

また、プレイヤーが試合に持ち込んでいいものにも制限がなく、飲食物やメモなど、プレイヤーは様々なものを持ち込んで試合を行っているのが現状です。

レギュレーションはどう変わるべきか

ウメハラ選手が巻き起こした一連の議論を経て、HitBoxは無視できない存在となり、近々何らかの制限がかけられる可能性が大いにあります。しかし、厳密にHitBoxだけを制限するのは難しいのも事実です。

「自作コントローラーを全面禁止」や「特定の基盤は禁止」にしてしまえば、アケコンの文化にも影響が出てしまいます。

また「アケコンとパッド以外禁止」というルールを設けても「どこまでがアケコンなのか?」という問題は解決されません。

「コントローラーでなく、方向入力に関するゲームシステムを変えるべき」という指摘も多くありますが、(その調整の難しさは置いておいて)それだけで全てのコントローラーは平等になるのでしょうか?

今言えるのは、CPT公式が発表した「CPTの精神に合わないコントローラーは禁止」という曖昧なレギュレーションでは、格闘ゲームが「善意」頼みで成り立っている現状は変わらない、ということです。

この先、格闘ゲームが成長していく中で、それを支える格闘ゲームコミュニティも変化を求められているのかもしれません。

実際にどのような変化がもたらされるにせよ、「善意」から自立していくことが格闘ゲームの発展には必要なのではないでしょうか。

あわせて読みたい



スサキリョウタ

プロフィールを見る

ウメハラ選手の動画を見て格闘ゲームを始めたウメ信者。現行のゲームではストV/鉄拳7/DBFZをプレイ中。色々やるせいでどれも上達しないが、ガチ動画勢。格闘ゲーム以外では、ハースストーンとFPSを少々。英語での対応可能。「国内外の格ゲーe-sportsシーンを伝えていきたいと思っています!」

あわせて読みたい

KEYWORD

キーワードから関連記事を探す

RANKING

人気の記事

  • DAILY
  • WEEKLY
  • MONTHLY

GAMES

注目ゲームから探す

ドラゴンクエストライバルズ

PUBG

Shadowverse

スプラトゥーン2

League of Legends

ストリートファイターⅤ

Hearthstone

Overwatch

PICKUP POSTS

編集部のおすすめ記事

TREND KEYWORD

注目キーワードから探す

LATEST

新着記事

すべての記事を見る