”公式スポーツに認可”の条例改正後、台湾のリアルなeスポーツ事情とは ー 台湾eスポーツ協会 理事長インタビュー

台湾では2017年、eスポーツを正式なスポーツ産業として認可する条例改正が行われました。こうした動きが伝えられ、台湾のeスポーツを取り巻く環境は、日本よりも一歩先に進んでいるイメージがあります。

2019年5月26日(日)、株式会社ミクシィが主催する「モンストグランプリ2019 アジアチャンピオンシップ」の台湾予選が台北にて開催。この日、台湾eスポーツ協会の理事長・施 文彬さんにインタビューをする機会をいただきました。

eスポーツチームが直面している経営の難しさや、学校教育の現場における取り組み例など、台湾のリアルなeスポーツ事情についてうかがっていきます。

施 文彬(シー・ウェンビン)
1964年12月10日生まれ。台湾eスポーツ協会(台灣電競協會/TAIWAN CYBER ATHLETE ASSOCIATION)の理事長。台湾のシンガーソングライターとしても知られている。
台湾eスポーツ協会 公式サイト(中国語)

「運動産業発展条例」改正によりeスポーツでも税金軽減措置

――まず最初に、施さんの経歴や活動内容について教えてください。

私は台湾出身の歌手です。小さな頃から、2つのことを続けてきました。1つは楽器、もう1つはゲームです。

2013年に、私は台湾eスポーツ協会(TCAA)を立ち上げました。当時の台湾では、eスポーツはスポーツとして認められていないという雰囲気がありました。環境としては、現在の日本と似ているのではないかと思います。

私たち台湾eスポーツ協会は、政府に対して、eスポーツをスポーツとして新たに「運動産業発展条例」(※1)に追加するよう、中心となって後押ししてきました。

努力を重ねた末、やっと2016年に立法院(※2)で公聴会を開くことができ、2017年に蔡総統はeスポーツをスポーツの一種として「運動産業発展条例」に追加すると宣言しました。

この後、台湾ではeスポーツに関連する団体は20団体を超えました。現在、私たちの団体は主に、学校におけるeスポーツの啓蒙活動やeスポーツに関する支援活動を行っています。

※1:条例は法律に相当。
※2:立法院は国会に相当。条例は立法院で議決する必要がある。

――「運動産業発展条例」について、より詳しく教えてください。

「運動産業発展条例」は以前からある条例で、2017年からeスポーツも新たに適応されるようになりました。こうして、eスポーツもフィジカルスポーツと同じように、条例の保護の対象となったのです。

この「運動産業発展条例」の趣旨の1つは、スポーツ選手を応援することです。具体的には、スポーツ選手に寄付をしたり、チケットを買って試合を観に行ったりすることで、所得税の控除があります。簡単に言えば、税金が軽減されるということですね。

つまり、現在の台湾においては、eスポーツの試合を観戦しても、野球の試合を観戦しても、両方が同じく控除の対象になり、税金が軽減されるようになっています。個人だけでなく、企業がスポンサーとして大会やイベントなどに協賛する場合も、同じく税金面の優遇を受けることができます。

ゲーム人口が多く、配信を観て楽しむ文化も根付いている

――現在、台湾ではどのようなeスポーツタイトルが人気ですか?

試合が放送される際の視聴人数に基づいて、台湾での人気タイトルをお伝えすると、最も視聴されているのは『League of Legends(LoL)』です。2位は『ハースストーン』で、3位は変動していますが、現時点ではおそらく『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS(PUBG)』だと思います。

――台湾ではゲームが文化として根付いているようですが、その理由について教えてください。

台湾では、eスポーツの試合やゲームの配信を観るのが好きな人が多い傾向にあると感じます。上手い人のテクニックを見て学ぶという側面もありますが、どちらかというと野球やバスケの試合を観戦するような、1つのエンターテイメントとして楽しまれていますね。ゲーム配信サイトでの視聴者数は、世界の中でもトップ5に入るほどです。

台湾の人口は2,300万人で、人口としてはそれほど多くないのですが、その内のゲーム人口は1,000万人を超えます。台湾では、外国の音楽やドラマ、ゲームなどに対して、とてもオープンマインドで、日本や韓国からのコンテンツが大量に流れ込んできています。

このような背景があり、かつ他の大きな国に比べてプロモーション費用を抑えられるという理由で、台湾はゲームメーカーやゲームパブリッシャーなどの関連企業にとって、テストマーケティングを行いやすい環境にあります。台湾で成功すれば他のマーケットでも上手くいく可能性が高いと言われています。

赤字に苦しむ台湾のeスポーツチーム運営の現状

――台湾において、eスポーツ選手として生計を立てている人はどれくらいいますか?

現在プロとして活動しているeスポーツ選手は、200名前後いると想定されます。トップクラスの選手の月給は、およそ15万台湾ドル(約52万円)。一方、練習生の場合は、およそ2万5千台湾ドル(約8万6千円)からだと思います。

近年、選手の”輸出”も増えてきました。例えば、月15万台湾ドルを稼ぐトップクラスの選手が台湾のチームとの契約を終え、中国のチームに移籍したケースでは、その選手の月給は150万台湾ドル(約520万円)にもなったと言われています。

――eスポーツ選手はスポンサー企業などから、どのようなサポートを受けていますか?

eスポーツが「運動産業発展条例」に追加された後、企業がスポンサーとして、直接eスポーツチームや選手を支援することができるようになりました。

ですが、現状としては、台湾のeスポーツ市場規模はまだそれほど大きくありません。私はこの現状について、誠実にお伝えしなければならないと思っています。

eスポーツチームを経営している企業はとても苦労しています。優秀な選手を集めてチームを運営していくためには、たくさんの費用が必要ですから。冗談のように聞こえますが、チームを持つオーナーたちは毎年、「今年最も赤字が少ないのはどのチームだ?」と競い合っているようです。

道のりはまだまだ長いです。2017年の条例改正はまだ始まりに過ぎず、我々はこれからも引き続き努力を続けていきます。

――台湾の企業にとって、eスポーツの大会やチームのスポンサーになる価値があると考えられていますか?

条例改正が行われた後、企業からの協賛は徐々に増えつつあります。例えば、銀行など金融業界の企業がチームのスポンサーになり始めました。

ですが、まだ努力すべきところが多く残っており、その規模はあまり大きくありません。韓国や日本で大きな企業がeスポーツに対して投資しているのを見て、正直なところ私は羨ましさを感じています。

台湾の企業には、PCゲームに必要なPC本体やデバイスのメーカーが多くあります。例えば、ASUSやMSI、BenQなどですね。こういった企業はグローバル企業なので、狙うマーケットは台湾だけでなく世界の国々です。

ASUSの場合、中国で開催されている『LoL』リーグの「LPL」に出場するeスポーツチームのスポンサーとなり、膨大な予算を投じています。しかし、台湾の人口数は2,300万人しかいませんから、中国と同じ規模で投資する台湾企業は現時点でほぼありません。

視聴数やファンの数を考えても、こういったハードウェアメーカーにとって、同じ予算であれば、中国やアメリカなどに向けて使ったほうが確実に多く商品が売れ、費用対効果が高いという判断になります。

ビジネスの世界では、やはり投資とリターンを考えなければなりませんから、台湾のチームが立たされている苦境は、まさにここにあるのだと私は思います。

学校教育の現場や、親世代からのeスポーツへの理解は?
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綾本 ゆかり

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ソーシャルゲームをつくっていた会社員時代を経て、現在はフリーライターとして活動。PUBGで観戦の楽しさを知ったことをきっかけに、eスポーツの世界へ。ゲームやプレイヤーの魅力を伝えるべく、イベントレポートやインタビューを中心に取材記事を執筆します。

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