西谷麗が求める自立と自律   オーナーはいかに選手と向き合うべきか

NTT出版により、6月3日(月)から発売されている、eスポーツ業界の8人の「中の人」が独自の目線と立場で寄稿した書籍『1億3000万人のためのeスポーツ入門』

従来のeスポーツ書籍にはないディープな切り口で書かれている面もあれば、業界のことを何も知らない人が読んでも把握しやすい編集が施されている本著ですが、SHIBUYA GAME編集部はまだまだ面白そうな話が眠っていると判断し、怒涛の7連続インタビューを敢行することとなりました。

聞き手として、独立ゲームメディア「ゲーマー日日新聞」を運営するJiniさん(@J1N1_R)に、紙面に書ききれなかった彼ら、eスポーツの”あいだ”ではたらく人々の真意を探っていただきます。

 

―――

 

ゲーマー日日新聞のJiniです。

『1億3000万人のためのeスポーツ入門』発刊記念インタビュー、ラストはWekidsとeスポーツチームRush Gamingを運営する西谷麗(@ularatter)さんです。

慶應義塾大学経済学部を卒業し、イギリスのゲーム開発会社Playfishにの第一号社員として日本支社の立ち上げ、独立後ゲームのマーケティング、コミュニティマネジメント、クリエイティブ制作を行うWekidsを2014年に創業。その中でGreedZzさんと出会い、Rush Gamingの運営事業を開始します。

「なぜ、Wekidsの事業としてRush Gamingを手がけるようになったのか?」「Rush Gamingに求める自立と自律とは何なのか?」普段は論理的な経営者である西谷さんが、それでも隠しきれない選手への想いを含めてお伝えします!

 

Jini まずお聞きしたいのですが、なぜこの書籍の執筆に参加されたんですか?

 

西谷 eスポーツ以外の既存領域で、プロフェッショナルとして活躍されている執筆陣が集まっていたのが大きいです。eスポーツってアングラな文化の側面が大きいじゃないですか。そのアングラなりの手法で世間に対して訴えても中々理解されないと思うんです。でも、ここの方たちは幅広い関心から集まっているので、そういった面で安心できたのが大きな要因です。

他の執筆陣は「eスポーツ業界の外の人」に伝えたい意図もあったようですが、自分は選手の親御さんにも読んでもらいたいと思って書きました。

 

Jini 各分野のプロフェッショナルな人たちが集まっているからこそ、幅広い世代に伝わると考えられたんですね。

では書籍の内容から質問させていただきます。西谷さんの章にて

「会社としては、惜しみなく個人のエンパワーメント、言い換えれば「個々人が自ら稼ぐ力」への投資、プロデュース及び教育、そして戦力アップへ資金を投下しています。」

とあります。

選手にあまり関与しないスタンスのチームもある中、Rush Gamingが積極的に選手の自立へ投資していることに驚きました。

 

西谷 選手に深く関与はしますが、そもそも私たちは選手に「自律」を求め、その上で「自立」を促すスタンスなんです。

「自律」についてですが、自律した人間が揃った組織でないと、単純に経済的な投資リスクが高すぎます。選手に関与する、教育するとはいえ、その投資効果を考えると、選手本人が行動を起こせる人間であることが大前提です。なので選手には「最低限自分で考えてアクションを起こせる人であってほしい」と伝えています。

またこの「自ら立てた規範に従って行動する文化」は、Rush Gamingの共同創業者であるハセシン、そしてGreedZzから脈々と受け継がれているものでもあります。GreedZzはにスポンサーの依頼をしてきた時点で既に、自分でYoutubeチャンネルをマネタイズする努力を行っていたし、ハセシンという圧倒的なリーダーによってチーム全体で相互協力をし合う文化形成がなされていました。

Rushというチームは、Wekidsが関与する前から、組織としてかなり成熟していたんです。大人があれこれ言わずとも、自ら考え行動し、助け合う組織だった。そういった「自律」する能力を持った選手たちだったからこそ、私たちは資金を投下してでも彼らの「自立」を支える判断ができます。

 

Jini eスポーツ活動におけるごく当たり前のマネジメントにコストをかけないからこそ、より上のステップである「自立」にコストをかけられるというわけですね。

 

西谷 Rush Gaming最初期からチームを支え続けてきたGreedZzとハセシンには、特にその力がありました。明確にチームを成長させるためのビジョンを持っていて、それを私に説明した上で、実際に実行する能力も持っていたんです。

組織は、創業者の在り方がそのまま文化になると私は思っています。だからこそ、彼らの文化がチームにしっかりと根付けば、投資した分のリターンがあると信じています。

一方で、そういった自らの時間やお金を使った努力を飛ばして、いきなり「支援して欲しい(あなたの時間とお金をくれ)」という人が少なからずいるような気がします。少し勿体無いですよね……。その課題を解決する為に本当に時間とお金が必要なのか、限られた中でも創意工夫して解決できないか、そんな風に試行錯誤することの方が、実はたくさんの学びがあって長期的には大きなメリットがあるはずです。

結局こうした「自律」が達成できる人間でないと、大成できないとも思います。「プロゲーマー」に限らず、「プロのeスポーツ選手は」は、分かりやすい成功の道が無いからこそ、ここがキャリアとしての成功を大きく分ける要因ですよね。

▲GreedZzさん

 

Jini 他のスポーツのプロであっても、ただスポーツがうまいだけで成功する選手は少ないですよね。

 

西谷 そもそも、スポーツ選手や個人事業主でなくても、サラリーマンでさえ自律していることは当然ですよね。大人ですし、責任もありますから(笑)。ただ会社に雇われて言われたことを実行するのではなくて、きちんと自分の頭で考えて行動できる人こそが活躍できます。

その上で、アスリートは究極的なフリーランスであり個人事業主です。仮に若くても、求められる自律の水準は最も高い。少なくともRush Gamingにおけるチームと選手の関係は、その自律に基づいて成立していたいなと、いつも思っています。

 

Jini 西谷さんは、選手にどんなプロゲーマーになってもらいたいと考えていますか?

 

西谷 どうなりたいかは、究極は選手次第かもしれません。そもそもプロゲーマーになりたいかどうかも、現状では本人の意志と実績次第です。

チームに所属する人の中には、純粋にゲームの実力を上げたい人もいれば、この活動を通して勝利を掴みたい人、配信やSNSで人気を得て次のキャリアに繋げたい人もいます。選手によって将来の考え方や得意なことも千差万別なので、全員が常に同じ方向性でいる必要はないと考えています。

ただ、選手の皆ともよく話すのは、日本での「プロゲーマー」という仕事に求められるのは、個人やチームがちゃんと支持されること、そしてコミュニティにどれだけ価値を出せるかということです。だから、強くないといけないけれど、現状は強いだけでは仕事に出来ないことが多い。その現実と真剣に向き合おう、と。

もちろん、勝てば何億円という賞金がある『Dota 2』などで世界タイトルが狙える実力があるなら話は別です。スポーツで言うとゴルフプレイヤーに近しい次元ですね。ただ、『CoD』においてはまだまだ。もし今後CoD選手としての価値が強さのみで成り立つ世界が来るとしても、今よりも一層コミュニティが成長した先にしか起こり得ないと思います。

そのためにも、選手は選手としてだけでなく「人」として、チームはチームとしてだけではなく「ブランド」として、ゲームは「コミュニティ」として、みんなが努力して地に足をつけた発展を成し遂げていきたいですよね。時間はかかりますが必要なことだと思いますし、それこそが私たちがコンテンツ制作や発信を頑張る原動力にもなります。

「ゲームだけ頑張れば良い」と思い込んでいる人が多いと、まだまだその未来は遠いような気がしますね。

 

Jini 仰る通りだと思います。特にRush Gamingが力を入れている『CoD』は毎年タイトル自体が変わりますし、他のタイトルでもゲームバランスの変更でこれまでの戦略が通用しなくなることもザラなので、純粋な強さだけを求めることは相応のリスクが伴いますよね。

 

西谷 いくらリスクが大きいといっても悪いことばかりではないです。ちゃんとリスクやコストを把握した上で若いうちからチャレンジするのであれば、それも道だと思います。

親御さんたちにも、この部分は特にお伝えしているつもりです。それに、Youtubeの配信やTwitter投稿を通して自分の息子がどのように成長しているのかを見れば、言葉で伝えずとも理解していただけているのではと思います。余談ですが、お母様の中には「これまでは息子のeスポーツ活動に全然興味がなかったけれど、Rushに入ってから毎日YouTubeを見るようになった」という方も多いんですよ(笑)。

若ければ、成功であれ失敗であれ、その選手の努力の量と質次第で社会勉強になることもあります。好きなことだから真剣になれるし、自律しようと努力する選手もいます。eスポーツの活動も、学校や部活と同じように大きな人生の糧になるものだと私は思っています。

 

Jini 仰る通りですね。編著者の但木さんもそれに近いことを仰ってました。今は不安定な時代だからこそ、リスクのある選択肢も取りうると。

そうした「自律」した選手だからこそ、経済的にも「自立」できる。その過程に資金を投下しているわけですよね。

Rush Gamingといえば、魅力的なアパレルをチームが設計することも、選手たちの経済的な自立に大きな貢献をもたらしているように思えます。書籍にも「コンテンツマーケティングの徹底」とありましたよね。

 

西谷 アパレルは海外では当たり前のように力を入れている分野ですね。チームの文化を形成する側面からも、非常に大事なことだと思っています。

そもそも経営方針として、BtoB(ビジネス向け)かBtoC(より広い顧客向け)、どちらに向けて展開するかを考えたときに、Rush GamingはまずBtoCでファンからの支持を得ることにフォーカスをあてました。ファンから直接的に支持されることで、BtoB領域においても本質的に価値を発揮できるからです。

アパレルグッズはファン向けであり選手が使う商品でもあるので、eスポーツをカルチャーとして印象付けられる商品を目指しています。例えばユニフォーム。選手が身に着けていてかっこいいもの、そして比較的細身なゲーマーにも似合うように、より細く作り、色彩も逆三角形に見せるような作りにしています。商品によってコンセプトからリサーチまで作り込んでいるんです。

ちなみに、アパレルのデザインはうちのクリエイティブディレクターがやっています。選手へのフォトショップの使い方指導やWebデザインも彼一人で手がけています。

▲豊富な品揃えのRush Gamingのオンラインストア

 

Jini では次に、「最大の投資対象はストーリー」と書籍にはありますが、西谷さんが重視する「ストーリー」とは具体的に何ですか?

 

西谷 これはファンビジネスの話にも繋がるんですが、我々の存在意義やどんな人間で何をしているかが最も大切なストーリーだと思っています。

正直なところ、eスポーツのビジネスは制御しやすいものではありません。ゲームタイトルでさえ、いつまで続くかはわかりません。

だからこそ唯一不変なものとして、チームで戦う自分たち“選手”という、「人間的な部分」だけはしっかりと作っていくべきだと思います。そして、このいわゆる「エモ」な部分は、時間をかけて築いていくしかないんです。

 

Jini 具体的にどのように人間的な部分を見せていますか?

 

西谷 Rush Gamingでは選手たちの日常生活から、試合前後の心境や葛藤を伝えるような動画、ブログ、配信などのコンテンツ制作にはじまり、日常の個々人の様子をYouTubeTwitterを通して積極的に見せています。Rush GamingのYouTubeチャンネルではドキュメンタリー形式で選手の戦いを追っています。これは海外の強豪チームもやっていることですが、まだ日本では主流ではないかもしれません。

我々のeスポーツはただ強ければ儲かる世界ではないからこそ、このような「共感」を生むストーリーテリング、コンテンツ制作が非常に重要なんです。

と、なんかそれっぽいことを言いましたが、結局は他ならぬ私自身が一番のファンなんですよね(笑)。なのである種、私がファンとして見たいものを作っている節もあります。心の中では無邪気に「ここにダイヤモンドの原石があるから見てみて!一緒に磨いていこうよ!」みたいな。

いつかこのギアを変えないといけない日が来るとは思いますが、概ね間違ってはいないと思っています。

 

Jini 書籍では「ゲーム活動を通じて若者たちを教育し〜」とも書かれていましたが、選手への教育的な姿勢は強いのでしょうか?

 

西谷 これはあくまでビジネスで学校ではないので、チームとして一方的に「教育する」みたいな姿勢ではないです。とは言え、やはり実際に戦う選手たちを見ていると「育ててあげたい」と思ってしまうのも事実ですね。若干教育に寄りがちなのはうちの弱いところかもしれません、もう少し冷徹非情にいきたい気持ちも……。でも彼らは若いので教育も必要です。

実は、会社をNPOにしようかなと考えたこともあります(笑)。ただNPOにしても、経済として持続可能にするためには「教育」はエゴになってしまいます。今の若者に本当に必要なのは「現実」です。

 

Jini 「現実」とは、Rush Gamingが向き合わなければならない対戦相手やファンのことでしょうか?

 

西谷 彼らが直面する現実のことですね。

Rush Gamingは暖かいファンも多くいて、配信活動も数字が伸びやすく、環境的には努力が報われやすい場所だとは思います。それでも勝負の世界にいれば、報われない努力、非情な勝ち負けを繰り返して尚やり続けないといけない現実、厳しい社会からの目、勝つのも大変なのに勝っても儲からない現実、敗戦後のファンからの厳しいコメント……。それらの「現実」と向き合い、乗り越えて生きていかないといけないんです。

私は、彼らが現実を追う姿を応援したい。そんな彼らを見ていると、私みたいな普通の人間でも「よし、明日も頑張ろう」って希望をもらえるんですよね。

こういった現実を、ぎゅっと濃密に経験することが、教育という観点においても非常に大きな意味を持っていると思います。

 

Jini そもそも、どうしてゲームという「現実」と向き合う選手を見て、(ゲームとプロとして向き合わない)我々でも共感できると西谷さんは思いますか?

 

西谷 ゲームのプロというだけで異世界のように感じるかもしれないですが、必死で一生懸命な姿って誰もが共感できると思うんですよ。

夢を追いかけるなんて誰もができることではありません。熱狂も誰もが持っているわけではないです。まるでみんな熱い夢を持っているかのように振る舞っているかもしれないですが、私は持っていないのが当たり前だと思います。

だからこそ、それらを持っていて、全力で現実にぶつかっていく選手たちの姿に感動し、共感し、感動できる。

彼らは現実に向き合うと同時に、「負けるかもしれない」という最悪の恐怖とも立ち向かいながら挑戦しています。きっと、ほとんどの人はできないことです。絶対にプライドやリスクが邪魔をします。だから挑戦する勇気と情熱に、誰もが感動できるんです。

 

Jini プロの選手は誰もがその勇気を持っていると思うのですが、それを「見える化」することで人気が出たのがRush Gamingなわけですね。

 

西谷 そうだといいなと思います。強さや戦績だけではないところにも、アスリートとしての魅力がありますからね。Rush Gamingが『CoD』を遊んでいない人やカジュアル勢、時に年配の方からも応援して頂けるのは、彼らの持っているその勇気を見える化させているからなのかもと思います。

今の時代、「勇気」ってすごく貴重な要素だと思うんです。eスポーツは視聴者層が若い点がよく注目されますが、eスポーツの社会的価値は、若者に勇気を見せられることなんじゃないかなと思っています。

うちのチームの戦績は、正直、昨今芳しくありません。ですが、今後も長くキャリアとしてやっていくのであれば、思うような戦績が出ない……なんてことはいくらでも起こりうることです。その中でも、初志を忘れず、日々丁寧に鍛錬を続け、勇気を持って挑戦し続ける選手が1人でも増えれば、自ずとチームの道は拓けていくと思っています。

微力ですが、チーム運営としても新しい挑戦を続けていきたいと思っているので、引き続き応援いただけたら嬉しいです。

 

―――

「現代を生き抜くプロゲーミングチームをどう運営すればいいのか?」

この問題に対して真摯に向き合い、ユニークかつシャープな方法で取り組んできたRush Gamingの代表、西谷麗さん。

選手の自律を重んじ、自立を促すそのスタンスは、間違いなく今後チーム運営のスタンダードになっていくだろうと確信させる説得力がありました。

 

1億3000万人のeスポーツ入門 執筆陣8人にインタビュー《特集》怒涛の7連続インタビューを敢行!

J1N1

プロフィールを見る

個人ゲームメディア「ゲーマー日日新聞」でゲームの批評とか書いてます。何でも遊びますが、深いコクのあるゲームが大好物です。でも古い銃がたくさん出てくるゲームにはすぐ惚れます。

RANKING

人気の記事

  • DAILY
  • WEEKLY
  • MONTHLY

GAMES

注目ゲームから探す

ドラゴンクエストライバルズ

PUBG

Shadowverse

スプラトゥーン2

League of Legends

ストリートファイターⅤ

Hearthstone

Overwatch

PICKUP POSTS

編集部のおすすめ記事

TREND KEYWORD

注目キーワードから探す

LATEST

新着記事

すべての記事を見る